パワハラの法的基準——「前にも言ったよね」は該当するのか

「前にも言ったよね」という言葉は、法的にパワハラに該当するのでしょうか。厚生労働省が定めるパワハラの定義と照らし合わせてみましょう。

パワハラ認定の3つの要素

厚生労働省の「パワハラ防止指針」によると、以下の3つの要素をすべて満たす場合にパワハラと認定されます。

要素1優越的な関係を背景とした言動(上司→部下など)
要素2業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
要素3労働者の就業環境が害される

上司が部下に「前にも言ったよね」と言う場合、要素1の「優越的な関係」は満たしています。問題は、要素2と要素3に該当するかどうかです。

「精神的な攻撃」に該当する可能性

厚生労働省はパワハラを6つの類型に分類しています。その中の「精神的な攻撃」には、以下のような言動が該当します。

・人格を否定するような言動
・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う
・他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う
・相手の能力を否定し罵倒するような内容を他者にも送信する

ポイントは「繰り返し」という点です。1回きりの発言であれば、パワハラと認定される可能性は低いかもしれません。しかし、日常的に「前にも言ったよね」と繰り返し言っている場合は、パワハラと認定される可能性が高まります。

グレーゾーンでも問題は大きい

仮にパワハラの法的基準を満たさなかったとしても、部下が「精神的なストレスを感じた」「尊厳を傷つけられた」と感じている時点で、マネジメントとしては失敗です。

弁護士の梅澤康二氏は、著書『それ、パワハラですよ?』の中で、「相手に屈辱感を与えることを目的としていると評価される場合は、パワハラと認定される可能性がある」と指摘しています。

「前にも言ったよね」という言葉の裏には、「なぜ覚えていないんだ」「もっとしっかりしろ」という感情があります。その感情が伝わった時点で、部下は屈辱感を覚えてしまうのです。

今日から使える「言い換えフレーズ」

では、「前にも言ったよね」の代わりに、どのような言葉を使えばいいのでしょうか。具体的な言い換えフレーズを紹介します。

NGフレーズと言い換え対照表

NGフレーズ言い換え例
「前にも言ったよね」「ここが苦手に見えるけど、どう思う?」
「何度目?」「困っているところはどこ?」
「どうしてできないの?」「どこまでできた?」
「自分でやるからもういい」「手伝えるところはある?」
「これで3回目だよね」「この抜けがあるとお客様が困るから、確認してもらえる?」

共通しているのは、過去の失敗を責めるのではなく、未来に向けた改善を促す言い方になっている点です。

「前にも言ったよね」は過去を向いた言葉です。一方、「困っているところはどこ?」「手伝えるところはある?」は未来を向いた言葉。この視点の違いが、部下のモチベーションを大きく左右します。

「回数」ではなく「影響」を伝える

もう一つ重要なポイントがあります。ミスを指摘する際は、「何回目か」ではなく「どんな影響があるか」を伝えることです。

「これで3回目だよね」と言われても、部下は「責められている」としか感じません。しかし、「この抜けがあると、お客様が困ってしまうから」と言われれば、なぜ改善が必要なのかが理解できます。

人は「怒られたから」ではなく、「納得したから」行動を変えます。回数を数えるのではなく、影響を伝える。これだけで、部下の受け止め方は大きく変わります。

前にも言ったことは、また言えばいい

そもそも、前にも言ったことをもう一度聞かれたら、どうすればいいのでしょうか。答えはシンプルです。また言えばいいのです。

繰り返し説明することを面倒だと思うのではなく、「自分にとっても再確認の機会になる」と捉えてみてください。教えることで自分の理解も深まります。そう考えれば、同じ質問を受けることへの抵抗感も薄れるはずです。