「前にも言ったよね」がNGな心理学的理由

なぜ「前にも言ったよね?」という言葉が、これほど部下の心を傷つけるのでしょうか。劇作家の竹内一郎氏は、著書『あなたはなぜ誤解されるのか』の中で、この言葉の問題点を鋭く指摘しています。

優秀な人ほど言ってしまう

興味深いのは、仕事ができる優秀な人ほど、この言葉を常套句にしている傾向があることです。自分が一度聞けば覚えられるタイプだからこそ、「なぜ覚えられないのか」が理解できない。その結果、無意識のうちに「前にも言ったよね」と口にしてしまうのです。

言っている上司は「快感」を感じている

さらに問題なのは、「前にも言ったよね」という言葉を発するとき、上司は無意識のうちに快感を感じていると竹内氏が指摘している点です。「自分は正しいことを教えた」「相手が覚えていないのが悪い」という優越感が、その快感の源泉です。

しかし、この快感には大きな代償が伴います。

竹内氏は「上司は部下からの『人望を失う』という代償を払っている。人望を失うのは、それを言った相手からばかりではない。それを聞いている周囲の人全てから、である」と警告しています。

つまり、あなたが部下に「前にも言ったよね」と言うとき、その言葉を聞いている他の部下たちも、あなたへの信頼を失っているのです。

言われた側は「恐怖」しか感じない

一方、言われた側はどう感じているのでしょうか。

上司としては「反省してほしい」「次は気をつけてほしい」という意図があるかもしれません。しかし、部下が感じるのは「反省」ではなく「恐怖」と「萎縮」だけです。

経営コンサルタントの指摘によれば、「『前にも言ったよね』は、ただの感情であり、何かが好転する要素はありません。ここで生まれるものは、言った『上司の感情発散』と言われた『新人のプレッシャーや不満』だけ」だといいます。

結果として、部下は上司に質問や相談をしなくなります。「また怒られるのではないか」という恐怖から、わからないことがあっても聞けなくなり、ミスが増える悪循環に陥ってしまうのです。

70.6%が「言い方で辞めなかった」という衝撃

ペンマークとアルバトロスの調査で、最も注目すべきデータがあります。

「もし上司の言い方や伝え方が改善されていたら、退職や転職を思いとどまっていた可能性が高いと思うか」という質問に対し、70.6%が「可能性は高い」と回答しました。

回答割合
可能性は非常に高い32.3%
可能性はやや高い38.3%
その他29.4%

この数字が意味するのは、給与や待遇ではなく、上司の「言い方」が離職の決定的な要因になっているということです。

さらに、約9割が「上司とのコミュニケーションが原因で辞めたいと感じたことがある」と回答しています。そのうち「頻繁にある」が19.6%、「時々ある」が42.1%と、6割以上が継続的にストレスを抱えている実態が明らかになりました。

新卒3年以内離職率は過去最高

2024年10月、厚生労働省が発表した「新規学卒者の離職状況」によると、大卒者の3年以内離職率は34.9%に達しました。これは前年比2.6ポイント増で、2005年以来16年ぶりの高水準です。

新卒の約3人に1人が3年以内に辞めている現実。そして、その多くが「上司の言い方」を理由に挙げている——この事実を、管理職は重く受け止める必要があります。

Z世代は「なぜ」を知りたがる

Z世代は幼少期からインターネットに触れ、膨大な情報にアクセスしてきた世代です。彼らは「なぜそうするのか」という理由や背景を理解した上で、主体的に仕事に取り組みたいと考えています。

「前にも言ったよね」という言葉には、その「なぜ」がありません。単に過去の失敗を指摘するだけで、どうすれば改善できるのかという建設的な視点が欠けています。だからこそ、Z世代の心に響かないのです。

では、「前にも言ったよね」はパワハラに該当するのでしょうか。次のページでは、法的な観点から解説します。