「入社初日に、もう会社を辞めたい」。そんな決断が、いま現実に起きています。2025年4月1日、退職代行サービス「モームリ」は、公式X(旧Twitter)で「この1日だけで134件の退職代行依頼があった」と公表しました。そのうち5件は、入社初日の新卒社員からの依頼だったとされています。

何が起きたのか――数字が示す“初日退職”のインパクト

4月1日は、多くの企業で入社式が行われる新年度のスタート日です。その日に134人が退職代行を使って職場を去り、5人は社会人1日目の新卒社員だったという事実は、多くのメディアやSNSで取り上げられ、大きな議論を呼びました。

モームリはその後の投稿で、4月1〜3日の3日間で新卒からの退職代行依頼が合計33件に上ったことも明らかにしています。入社から数日以内という、ごく早い段階で退職を選ぶ人が少なくないことがわかります。

新卒5人はなぜ「初日で辞める」と決めたのか

モームリが公表した新卒利用者の退職理由には、具体的なエピソードがいくつか紹介されています。個人が特定されない範囲で要約すると、次のような内容です。

入社前に聞いていた条件と現実のギャップ

「説明会や求人票で聞いていた仕事内容・勤務条件と、実際に提示された条件が違った」という声は、退職代行に限らず新卒の退職理由としてよく挙げられます。モームリが紹介した例の中にも、思っていた接客業務とは異なる仕事ばかりで、やりがいを感じられなかったというケースが含まれていました。

入社式や研修で感じた“この会社は危ないかも”というサイン

社長が入社式の場で新入社員を人前で怒鳴りつけたり、研修で「脅し」に近い言葉を繰り返したりといった、いわゆる体育会系の指導スタイルにショックを受けたという事例も紹介されています。「ここで長く働く自分の姿がどうしても想像できない」と感じ、初日から退職を選んだ人もいたといいます。

メンタル面の不安と、「働ける状態ではない」との自己判断

中には、配属や業務内容を想像するだけで吐き気や強い不安に襲われ、「今の自分の状態ではここでは働けない」と判断した人もいます。こうしたケースでは、本人がもともと抱えていたメンタルの不調に、入社を巡る緊張や職場環境が重なってしまった可能性も考えられます。

「3年は我慢」の時代から、「違う」と感じたら動く時代へ

かつては「石の上にも三年」「新卒で入った会社はまず3年続けるべき」といった言葉が当たり前のように語られてきました。しかし実際には、1990年代以降、新卒の早期離職率は長く「3年で約3割」前後で推移しています。厚生労働省の最新データでも、大学卒の就職後3年以内離職率はおよそ3人に1人という水準です。

つまり、「3年以内に辞める人が珍しい」というより、むしろ一定数は早期に会社を離れるのが日本の雇用の実態です。違うのは、その離職のタイミングが「数年たってから」よりも、「入社直後」などより早い段階にシフトしていると見る人が増えている点です。

退職代行という選択肢が当たり前になりつつある背景

退職代行サービスは、本人に代わって会社と連絡を取り、退職の意思を伝える民間サービスです。かつては「本当にそんなものを使う人がいるのか」と見られていましたが、近年は若い世代を中心に利用が広がっています。

就職情報会社の調査では、2024年上半期に「退職代行を利用して退職した社員がいた」と答えた企業は2割強にのぼり、過去数年で割合が増えていることがわかっています。また、直近1年間に転職した人のうち「退職代行を利用した」と答えた人も1〜2割程度に達しているとする調査もあります。

退職代行の利用が広がる背景として、一般的には次のような要素が複合的に影響していると指摘されています。

  • 転職が一般的になり、「一社に長く勤めること」へのこだわりが弱まっている
  • SNSの発達で、他人の退職体験やサービス情報を簡単に知ることができる
  • 上司に直接退職を切り出すことへの心理的ハードルが高い
  • ハラスメントや長時間労働など、「自分を守るために早く職場を離れる」という考えが広がっている

「初日退職」は甘えなのか、それとも自己防衛なのか

入社初日に退職代行を使う新卒に対しては、世代や立場によって受け止め方が大きく分かれます。「さすがに決断が早すぎる」「もう少し様子を見てからでもいいのでは」といった声がある一方、「明らかに合わない職場から早く離れるのは賢い選択」「バックレるよりずっと誠実」といった意見も少なくありません。

どちらの考え方にも一理があります。強い違和感や危険を感じながら我慢し続ければ、心身の不調に陥るリスクがあります。一方で、感情が高ぶった瞬間だけで判断を重ねると、短期離職が続き、次の就職活動で不利になることもあります。

重要なのは、「辞めるか・続けるか」を白黒で考えるのではなく、可能なら第三者を交えて冷静に状況を整理することです。社内の人事・相談窓口、大学のキャリアセンター、公的な相談窓口などに話を聞いてもらうことで、選択肢やリスクをより具体的に把握しやすくなります。

企業側に突きつけられた課題――オンボーディングの見直し

今回のようなニュースは、個人の価値観の変化だけでなく、企業側の課題も浮き彫りにしています。新卒が入社初日から退職代行を使うというのは、「採用から入社までのどこかで、期待と現実のギャップが放置されていたサイン」とも読み取れるからです。

たとえば、次のような点は多くの企業にとって共通の見直しポイントといえます。

  • 求人票や説明会での情報提供が、実際の業務・労働時間・評価制度を正しく伝えているか
  • 入社式や研修で、威圧的な言動や「根性論」が当たり前になっていないか
  • 新入社員が不安や違和感を言葉にしやすい相談窓口や、メンター・OJT担当者の体制があるか
  • 配属前後のタイミングで、本人の適性や希望を丁寧にすり合わせる場を設けているか

退職代行を「若者の甘え」とだけ捉えると、こうした改善ポイントは見えにくくなります。なぜ辞めたのか、どこでギャップが生じたのかを丁寧に分析することが、結果として離職率の低下や採用コストの圧縮につながる可能性もあります。

新卒で会社を辞めるか迷ったときに考えたいこと

入社したばかりの会社が「どうしても合わない」と感じたとき、退職代行を含めていくつかの選択肢が頭をよぎるかもしれません。その際に意識しておきたいポイントを、最後に整理します。

  • まずは自分の体調と安全を最優先にする(心身の不調が強いときは、医療機関や公的な相談窓口に頼る)
  • 一時的な感情か、構造的に変わりそうにない問題かを切り分ける
  • 家族や友人、専門家など、利害関係の薄い第三者に相談してみる
  • 辞めた後の生活費・キャリアプランを、現実的な数字でイメージしておく
  • 退職代行を使う場合も、「なぜ辞めるのか」を自分なりに言葉にしておく

新卒カードを早い段階で手放すかどうかに「正解」はありません。ただ、今回のようなニュースは、「働き方の選択肢が広がった時代に、自分はどう生きていきたいのか」を考えるきっかけになります。企業も個人も、それぞれの立場から現実を直視し、よりよい働き方を模索していくことが求められていると言えそうです。

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