「老後のためにお金を準備しなきゃ」と思いつつも、具体的にいくら必要で、どう準備すればいいのか分からず、預金のままなんとなく置いている方は少なくありません。過去には、いわゆる「老後2,000万円問題」という言葉が話題になり、不安だけが印象に残ったという人も多いでしょう。

このページでは、老後資金をざっくりと考える手順と、その不足分を埋める一つの方法として「インデックス投資」をどう位置づけるかを、投資初心者向けにやさしく整理します。特に、100万円以上の余剰預金があり、「一部を将来のために働かせてみてもいいかも」と考え始めた方向けの内容です。

老後資金はいくら必要?ざっくりした考え方

老後に「毎月いくら足りそうか」を見積もる

老後資金を考えるとき、最初から「2,000万円必要」と決めつける必要はありません。重要なのは、次のような流れで「自分の場合の不足額」をおおまかに把握することです。

  • 老後にどのくらいの生活費が必要か(月いくらぐらいか)をイメージする
  • 年金などの見込み受取額を確認する(ねんきん定期便や年金ネットなど)
  • 生活費から、年金などの収入を差し引き、「毎月の不足額」の目安を出す

たとえば、生活費が月25万円、年金などの手取りが月20万円なら、不足額は月5万円。この不足が30年間続くと仮定すると、5万円×12か月×30年で1,800万円ほどが必要、というような考え方になります。あくまで「ざっくりとした目安」ですが、老後資金のイメージを持つうえでは役立ちます。

「老後2,000万円問題」はあくまで一つのモデルケース

話題になった「老後2,000万円問題」も、高齢夫婦世帯の平均的な家計を前提に、「毎月の赤字が5万円程度続いた場合、20〜30年で1,300万〜2,000万円が必要になる」という試算から来ています。これはあくまで一つのモデルであり、実際に必要な金額は、住んでいる地域や持ち家かどうか、旅行や趣味にどれだけ使うかなどによって大きく変わります。

「自分はどういう老後を送りたいか」を考え、そのためにどのくらいプラスの資金が欲しいかをイメージすることが、インデックス投資を含む資産形成を考える第一歩です。

老後資金づくりにインデックス投資が向いている理由

長期でコツコツ増やす発想が老後資金と相性がいい

老後資金づくりは、一般的には20〜30年以上の長い時間軸で考えます。この長い期間を活かして少しずつお金を増やしていく方法として、金融庁なども「長期・積立・分散」の資産形成を紹介しています。

インデックス投資は、まさにこの「長期・積立・分散」と相性がよい投資スタイルです。株価指数に連動する投資信託(インデックスファンド)を使って、毎月一定額をコツコツ積み立てることで、時間を味方につけながら老後資金づくりを進められます。

預金だけでは増えにくいが、全部を投資に回す必要もない

超低金利が続く中、預金だけではお金はほとんど増えません。一方で、「老後資金のすべてを投資に回す」のはリスクが高くなり過ぎます。現実的なのは、次のようなイメージです。

  • 生活防衛資金(生活費の数か月〜1年分程度)は預金でしっかり確保する
  • それとは別にある余剰資金の一部を、インデックス投資で長期運用する

こうすることで、「もしものときに使うお金」と「将来のためにじっくり育てるお金」を分けて考えやすくなります。100万円以上の余剰預金がある場合、その一部をインデックス投資に回すことで、老後資金づくりのスタートダッシュにすることも考えられます。

100万円の余剰資金を老後資金のエンジンにするイメージ

スタート資金+毎月の積立で考える

ここでは、あくまで「イメージ」を持つためのシンプルな例として、次のようなケースを考えてみます。

  • 今、余剰資金として100万円をインデックスファンドに一括投資する
  • あわせて、毎月3万円を同じファンドに積み立てる
  • これを30年間、年率3%で運用できたと仮定する(税金や手数料は考慮しない単純な試算)

この条件で計算すると、30年後の評価額はおおよそ2,000万円前後になります。もちろん、これは一定の利回りで順調に運用できた場合の机上の計算であり、実際の相場は上下に大きくぶれるため、同じ結果になるとは限りません。

それでも、「今ある100万円」と「毎月の積立」を組み合わせて長期運用することで、預金のままでは得にくい規模の老後資金づくりを目指せる、というイメージは持てるはずです。

100万円をすべて投資に回す必要はない

とはいえ、「100万円を丸ごと投資に回すのは怖い」と感じる方も多いでしょう。その場合は、例えば次のような考え方もあります。

  • 100万円のうち、50万円は預金のまま手元に残し、残り50万円をインデックス投資のスタート資金にする
  • スタート資金には手を付けず、毎月の積立額を2万円・3万円など、自分の家計に合う金額で設定する

「一括でどれだけ投資するか」と同じくらい、「毎月どれくらいなら無理なく続けられるか」を考えることが大切です。老後資金づくりはマラソンのようなものなので、途中で息切れしないペース配分を優先しましょう。

老後までの年数別・インデックス投資の考え方

老後まで30年以上ある場合:成長資産を中心に

20代〜30代前半など、老後まで30年以上ある場合は、時間的な余裕が大きく、株式インデックスを中心にした運用を検討しやすい時期です。全世界株式や米国株式、国内株式などへのインデックス投資を軸に、「長期・積立・分散」を心がけることで、老後に向けた資産形成の土台をつくるイメージになります。

もちろん、年齢だけでなく、性格や収入の安定度なども影響しますので、「値動きの大きさにどこまで耐えられそうか」を考えながら、商品や配分を決めていきましょう。

老後まで10〜20年程度の場合:少しずつ安全資産を増やす

40代〜50代で、老後までの時間が10〜20年に近づいてきたら、徐々にリスク資産と安全資産のバランスを見直していく段階です。株式インデックスを中心にしつつも、預金や債券など値動きの比較的安定した資産の比率を少しずつ増やしていくことで、老後直前に大きく資産が減ってしまうリスクを抑えることができます。

急激に配分を変えるのではなく、数年単位で、少しずつ株式比率を下げるイメージにすると、相場の状況にもなじみながら調整しやすくなります。

老後まで10年未満の場合:大きく増やそうとし過ぎない

60代が近づき、老後までの時間が10年を切ってくると、「今から一気に増やそう」と大きなリスクを取るのは避けたいタイミングです。短期間で高いリターンを狙うよりも、すでに形成された資産を守ることに比重を置いた運用を意識したいところです。

インデックス投資を続けるにしても、株式への比率を抑え、預金・債券などの安全資産を厚くしておくことで、取り崩しが始まる時期の値動きをある程度和らげることができます。

老後に入ってからの取り崩し方の基本イメージ

毎月いくら取り崩すかの目安を決める

老後に入ったら、年金などの収入に加えて、インデックス投資で増やした資産を少しずつ取り崩して生活費を補っていくイメージになります。その際に大事なのは、「毎月いくら取り崩すか」という目安をあらかじめ決めておくことです。

公的年金の見込み額と、実際の生活費を照らし合わせ、毎月の不足額をカバーできる範囲で取り崩し額を設定します。取り崩し率が高すぎると、資産の減りが早くなり、老後後半で資金が不足するリスクが高まります。

数年分の生活費は現金クッションとして確保する

株式インデックスのようなリスク資産は、老後に入ってからも値動きが続きます。相場が大きく下がったタイミングで、やむなく株式を売って生活費に充てると、損失を確定させてしまうことになりかねません。

そこでよく紹介されるのが、「数年分の生活費は預金などの現金で持っておき、残りをインデックス投資などで運用する」という考え方です。相場が悪いときは、しばらく現金クッションから取り崩し、相場が落ち着いてからリスク資産の比率を調整する、といった対応もしやすくなります。

不安になりすぎず、過信もしないバランス感覚を

インデックス投資はあくまで「手段のひとつ」

インデックス投資は、老後資金づくりに活用しやすい手段のひとつですが、「これさえやっておけば老後は絶対安心」という魔法の方法ではありません。公的年金を軸に、預金や保険、必要に応じて他の資産運用も組み合わせながら、全体として無理のない計画を立てることが大切です。

そのうえで、「余剰資金の100万円+毎月の積立」をインデックス投資でコツコツ育てることができれば、老後資金の心強い柱になり得ます。預金だけでは増やしづらい部分を、インデックス投資に担ってもらうイメージで、長い時間を味方につけていきましょう。

出典:金融庁「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書『高齢社会における資産形成・管理』」野村アセットマネジメント「『老後資金2000万円問題』の解き方」金融経済教育推進機構「金融リテラシー応用編①~資産形成について~」