「とりあえず預金しておけば安心」と思って、気づけば100万円以上を普通預金や定期預金のまま置いている方は少なくありません。もちろん預金には、元本が保証されている安心感という大きなメリットがあります。ただ、物価が少しずつ上がっている今の日本では、預金だけに頼っていると「お金の実質的な価値」が目減りしてしまう可能性があります。
そこで選択肢のひとつになるのが、インデックス投資です。ここでは、難しい専門用語をできるだけ使わずに、預金を続ける場合との違いや、小額から無理なく始めるための考え方を解説します。
預金だけに頼ると何が起きる？
預金の良さと限界を整理する
まず、預金には次のような良さがあります。
- 元本が保証されている
- いつでも引き出せる流動性の高さ
- 値動きを気にする必要がなく、精神的に楽
一方で、現在の日本は長く低金利が続いており、普通預金の金利は年0.001％程度というケースも多くなっています。100万円を1年間預けても、利息は数十円とごくわずかです。金利が極端に低い状態だと、預金だけでお金を増やしていくのは現実的ではありません。
物価が上がると「実質的な価値」は目減りする
もうひとつ意識しておきたいのが物価の変化です。総務省統計局が公表している消費者物価指数（CPI）を見ると、近年は前年比でプラスの状態が続き、食品や電気代をはじめ多くのものの価格が上がっています。物価が上がるということは、同じ100万円でも将来買えるものが少なくなるということです。
例えば、今は100万円で買える家電や旅行が、10年後には110万円、120万円しないと買えないかもしれません。名目上の金額が変わらなくても、「100万円でできること」が減ってしまえば、実質的な価値は下がっていると考えられます。
このように、預金は「減らない安心感」がある一方で、「増やしづらい」「物価上昇に弱い」という弱点も持っています。
インデックス投資はどんな投資か
市場平均に連動するシンプルな仕組み
インデックス投資とは、株価指数などの「市場全体の動き」に連動することを目指した投資のことです。例えば、日本の代表的な指数である日経平均株価やTOPIX、世界全体や米国の株式市場の動きに連動する指数などがあります。
インデックス投資を行う場合、多くの個人投資家は「インデックスファンド」や「ETF（上場投資信託）」と呼ばれる金融商品を通じて、指数と同じような値動きになるように投資します。一社の株だけを買うのではなく、指数に含まれる多くの銘柄に分散して投資できる点が特徴です。
長期・積立・分散でリスクをならす
インデックス投資は、短期間で大きな利益を狙う投資ではありません。値動きのある資産に投資する以上、短期的には元本を下回ることもあります。その代わり、次のような工夫を組み合わせることで、リスクをならしながら資産形成を目指すスタイルです。
- 長期：10年、20年といった長い期間で運用する
- 積立：毎月など一定額をコツコツ買い続ける
- 分散：複数の国や銘柄に分けて投資する
金融庁なども、安定的な資産形成のためには「長期・積立・分散」が有効だと繰り返し発信しています。世界経済全体の成長に幅広く乗ることで、長い目で見て資産を増やしていく考え方です。
小額から始めるための考え方
生活防衛資金と余剰資金を分けて考える
預金からインデックス投資にお金を移そうと考えるとき、いきなり大きな金額を投資に回す必要はありません。むしろ最初は「生活に絶対必要なお金」と「当面使う予定のないお金」を分けて考えることが大切です。
一般的には、急な病気や失業などに備えるため、生活費の数か月分から半年〜1年分程度は現金や預金で確保しておくと安心だとされています。そのうえで、さらに余っているお金が「余剰資金」です。ここでいう100万円は、この余剰資金の一部であることが前提になります。
100万円のうち、どれくらい投資に回すか
例えば、すでに生活防衛資金が別に確保されていて、「当面使う予定のないお金が100万円ある」というケースを考えてみましょう。この場合でも、いきなり100万円全額を投資に回す必要はありません。
最初の一歩としては、次のようなイメージが現実的です。
- 100万円のうち、30万円だけインデックス投資に回してみる
- 残り70万円は、普通預金や定期預金としてそのまま手元に残す
実際に値動きを経験してみて、「自分はどのくらいの変動なら精神的に許容できるか」を確かめながら、時間をかけて投資額を増やしていく方法もあります。最初から完璧な配分を目指す必要はなく、「預金中心＋インデックス投資を少し混ぜる」くらいの感覚で十分です。
100万円が「寝ているお金」かどうかをチェックする
投資に回してよいお金か、簡単に確認する
その100万円が本当に余剰資金なのか、不安なまま投資を始めるのはおすすめできません。次のような質問に答えてみて、投資に回してよいお金かどうかを簡単にチェックしてみましょう。
- 生活費の数か月分〜1年分は、別の預金として確保できているか
- 今後数年以内に予定している大きな支出（住宅購入、教育費など）に、この100万円を充てる予定がないか
- 仮にこのお金が一時的に30％程度目減りしても、日々の生活が成り立たなくなることはないか
これらにおおむね「はい」と答えられるのであれば、その100万円は、少なくとも一部をインデックス投資に回す候補になり得ます。逆に、どれか一つでも不安が残る場合は、投資額をさらに小さくする、あるいはまずは生活防衛資金を増やすことを優先した方が安心です。
初めてインデックス投資を検討するときの注意点
手数料と商品内容を確認する
インデックスファンドを選ぶときには、「どの指数に連動しているか」とあわせて、「信託報酬」と呼ばれる運用コストにも注意しましょう。長期で保有する場合、年率の手数料が高い商品ほど、手元に残るリターンは目減りしてしまいます。
同じ指数に連動する商品であれば、信託報酬が低いものを優先するのが基本的な考え方です。また、毎月分配型の商品など、長期の資産形成には向きにくいタイプもあるため、商品説明や目論見書をよく読むことが大切です。
短期で大きく増やそうとしない
インデックス投資は、世界経済や株式市場の成長に長期的に乗る投資です。そのため、「数か月で大きく増やしたい」「すぐに何倍にもしたい」といった期待とは相性が良くありません。短期間での値動きに一喜一憂して売買を繰り返すと、かえって損失を広げてしまうおそれもあります。
余剰資金の範囲内で、10年、20年といった長い時間を味方につけることが、インデックス投資を活用するうえでの基本になります。預金の安心感も活かしつつ、一部のお金に「長期で静かに働いてもらう」という感覚で向き合うとよいでしょう。
預金だけに頼るのではなく、インデックス投資という選択肢を組み合わせることで、お金の役割を分けながら将来に備えることができます。まずは小額から、自分に無理のない範囲で検討してみてください。
